第3話 出産で起きた事 筋ジストロフィーの息子と共に生きる父のブログ

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筋ジストロフィーの息子と共に生きる父のブログ 第3話

頑張れ!ママちゃん

陣痛がきて 陣痛室に入ってからもうふた晩が経った。

2人とも初めてだから わかんなかったけど さすがに体力の限界っぽい 。

このままでいいのか…色々考えながら 手を握ったりマッサージする。

定期的に見に来てくれる助産師さんが

「あ、もう全開っぽいですね、このまま分娩室行きましょう。歩けますか?」

この状態で歩くのか!嘘やろ…

ママちゃんは言われた通り手を引かれながら歩いていく。

荷物を片してついて行くと テレビでも見たことのある分娩台がある。

おおお!テレビで見たことあるやつ!

って思ってたけど ママちゃんは それどころでは無い。

助産師さんと Daddyに支えられ乗っかるママちゃん

ママちゃんの手を握り ゆっくりと深呼吸するママちゃんを見つめながら、

心の中で何度も頑張れと思ってたけど 助産師さんもいるので 恥ずかしかったので 言わなかった。

と言うか言えなかった。照れ屋のDaddyちゃん。

時計はもうお昼の13時 何日病院にいるのか わからなくなるぐらいの感覚だった。

何度も何度も一緒に呼吸を合わせ お産が進んで行く。

途中助産師さんが 少し過呼吸気味だからと ビニール袋を渡され 袋を口に当てて 呼吸を繰り返す。

ボロボロになったママちゃん ありがとう

出産て 凄まじい。泣きそうになるけどもう少し頑張ろう

助産師さんが

「ほら、赤ちゃん見えて来てるよ!頑張って!赤ちゃんも頑張ってるよ!」

もうだめ…涙がとまらん…

「頑張れ!ママちゃん もうちょっと!」

知らない間に叫んでた。手を握り ママちゃんを見つめながら 何度も何度も声をかけた。

起きてはならない事

するとママちゃんが

「もう…赤ちゃん…行くって」

「え…?なんて?もっかい言うて!」

「赤ちゃんが行くって…」

「え…?ん?どういう意味?」

すると ママちゃんの目玉がグルグル回り白目をむいて 顔も歪んで 泡を 吹いた…

え?…え……なになに?なにが起こった?

ママちゃんの身体に付いていた心電図計が

ピーーーッ!

その音で 心電図計を見ると 波形が無い

「え・・なに・・・どうしたっ!」

「ママちゃん!おいっ!ママちゃん!」

反応しない。心電図計の音が鳴り響いてた。

その時間は 何秒だったんだろう。頭が真っ白になって覚えてない。

恐らく 起きては行けない事が起こったんだ。

どうする?どうする? パニックだった。

我に返り助産師さんに

「なにが起こった!なんとかして!はやくっ!」

分娩室から 走って出て行く助産師さん

1人取り残されて 呼びかけるしかなかった。

「ママちゃん!おいっ!ママちゃん!」

すぐに助産師さんと担当の医師が慌てて戻ってきた。

医師の顔色が変わりママちゃんのお腹を強く押した。

赤ちゃんを押し出したのか 助産師さんが処置をしているみたいだ。

そのまま 緊迫した表情で ママちゃんにまたがり心臓マッサージを始めてくれた。

意識のないママちゃんの半開きの 目が今も焼き付いている。

為す術もなく マッサージされているママちゃんを呆然と見ていた。

知らない間にたくさんの病院のスタッフが集まっていた。

15人以上はいたかな 何もしないで立ってるスタッフもいて

「何見てんねんっ!見てる暇があるならなんとかせぃよ!見せもんちゃうぞ!出てけー!」

意識を失い心臓マッサージをされている無防備なママちゃんを見られたくなかった。

「旦那さん!落ち着いてください!誰か旦那さんを外へ!」

スタッフが何人かでDaddyを囲み連れ出そうとする。

「なんやねん、どないなってんねん!」

「ちゃんと説明せー!!!」

つまみ出されたのは俺だった。

あんなにパニックになったのは初めてだった。

「なんかあったら 絶対許さんからなっ!」

手が空いているスタッフは
至急!分娩室まで!

と何度もアナウンスされる。

それだけの騒ぎでも反応のないママちゃんを見ながら分娩室の外に出された。

当たり前だと思っていた毎日

分娩室の外もたくさんのスタッフが悲壮な表情で走り回っていた。

映画で見るような野戦病院のような慌ただしさ。

黄色いガウンを着たまま待合室で座っていたお義母さんに声をかけた。

Daddyの表情で察したのか、スタッフの慌ただしさで感じ取ったのか 顔色が青ざめていくお義母さん。

「お義母さん…ママちゃんが…」

そこまで言うと手を合わせ念仏を唱え出すお義母さん…昭和の人だからそうなるわな

なぜか それで冷静になり

ママちゃんの側にいてやらないと、と思い

大きく深呼吸をして勝手に分娩室に戻った。

心臓マッサージは続いていて助産師さんもまだ処置をしている。

新生児を寝かす小さなベッドが運ばれてきていて そこでもなにか処置をしていた。

泣き声も聞こえてこない。

赤ちゃんを囲む人だかりでどうなっているのか確認できないままだった。

なんでこうなった…

なにが悪かった…

せめてママちゃんだけでも…

そんなことをぼんやり考えているうちに心臓マッサージが止まった。

ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!

波形が…波形が出てる……

やった…動いた…

正直この時の気持ちはぐちゃぐちゃでよく覚えていない。

ただ結婚して子供が生まれて普通に

ただただ普通に過ごしていけると思ってた。

それが当たり前だと思ってた。

子供が生まれママちゃんが笑っている。

当たり前の毎日が当たり前にあると思ってた。

こないだまで楽しそうに2人で笑ってたのに…

ママちゃんを失い授かった赤ちゃんも失うのかと思うと怖くて怖くて仕方がなかった。

ママちゃんは相変わらず意識はないままだけど 

産後の処置をしてもらって酸素マスクで眠っているのか気絶しているのか 

とにかく波形は安定している。

我に返って赤ちゃんの方を見るとたくさんのチューブに繋がれ、小さな身体をマッサージされていた。

小さな身体で大変だっただろう…

ママちゃんに必死になって赤ちゃんの事を考える余裕なんてなかった。

一瞬でも命を諦めてごめんな…情けない親父で…

いつ生まれたのか それさえも確認できてなかった。

お医者さんたちが必死に助けようとしてくれていた。

ありがとう…お願いします…なんとか…助けてください

頭の中が真っ白なまま願い続けてた。

しばらくたって泣き声は聞こえなかったけど 呼吸を始めたみたいだ。

そのままNICU(新生児集中治療室)に運ばれ経過を見てくれる。

ママちゃんの心臓が止まってた間 酸素が止まり仮死状態だけど頑張って生まれてきてくれた。

二人が必死に生きようと頑張ってくれた。

おめでとう息子 ありがとうママちゃん

今回、妊娠・出産・分娩という記事でした。

特に女性にとってデリケートな問題であることも考えながら記事にしました。

つらい気持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。

ごめんなさい。

書こうかやめておこうか迷いましたが 良いことも悪いことも正直に書いていこうと決めて始めたこのブログの大事な部分であると思いましたので書きました。

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