筋ジストロフィーの息子と共に生きる父のブログ 第15話
ふー君の保育園の最後のイベント。
生活発表会(お遊戯会)の本番が近づいて来た頃、ママちゃんに陣痛がやってきた。
家計の事情でギリギリまで働いていてくれてたのは感謝です。
予定日も近づいてきていたので、念の為 ママちゃんは予行演習の日に見学させてもらう事になった。
お遊戯会は 楽器を弾いたり歌を歌ったり演劇も見せてくれる。
その姿を見ながら
大きくなったなぁ…
とママちゃんしみじみ思う。
Daddyは本番に見に行く予定だったのに、先に色々 感想を嬉しそうに話すママちゃん。
楽しみ無くなるやん…
そう思いながら3人の食卓で話をしていた。
ふー君も 一緒にDaddyに全部話してしまいました。(笑)
そうこうしてるうちに陣痛がきた。
近くに住むDaddyの母親に連絡して ふー君をお任せする手筈になっていた。
母親は超特急で駆けつけてくれた。
ふー君の時にお世話になった総合病院に向かう。
前回の出産の時に すったもんだ あったけど 2人とも生還できたのは
設備の整ったこの病院だったから今回もこの病院を選んだ。
感謝感謝だ。
ぶっちゃけ ママちゃんは 女性に人気のお洒落な産科で 美味しいご飯や身体のケアなど セレブ気分が味わえる産科に憧れてたみたい。
前回の事がDaddyには 怖過ぎて 今回もここにしてもらった。(笑)
約6年ぶりに入る陣痛室。
Daddyの心は不安だらけだけど 一生懸命なママちゃんには見せられない。
2人目だけあって お産は思ったよりスムーズだった。
ふー君のときに準備していたビデオカメラは持ってきてなかった。
感動の誕生を撮るはずが 衝撃映像になってしまったからだ。(笑)
分娩室に移動してお産が続く。
ふー君の時とは比べ物にならないぐらいのスタッフの方がいた。
ふー君の時に担当してくれていた女医さんが今回も担当医だった。
でも、総合病院なので担当医の女医さんが分娩の時に勤務しているとは限らなかったのだが
ママちゃんがお産する時は自分を呼び出すようにとカルテに書いてくれていたのだ。
検診の時に
「何かあれば すぐに帝王切開に切り替えるからね」
と、言われていたママちゃん。
当直でもなかった女医さんが分娩室に駆けつけて来てくれた。
時間は午前3時を回っていた。
分娩台にも 早くから乗せてもらっていた。
腕には点滴をして、マスクまでしてもらい(たぶん酸素)、担架も部屋の端に用意されていた。
ふー君を出産した後に ママちゃんが女医さんに聞いたことがある。
数年前の事
「先生、わたし また子ども産めますか?」
先生は少しびっくりしてたけど、優しく笑って
「大丈夫 また産めますよ」
そう言われて嬉しそうに笑うママちゃんの笑顔は 今も忘れない。
きっと先生も6年間色々考えてたのかな…
その気持ちが嬉しかった。
ママちゃんの事があってから 総合病院のこの分娩室の中に1つの大きい黄色のボタンができた。
病院の偉い人が起きてはならない事が起きてしまった。
と言ったあの時の事を生かし
Emergency call
と書かれた大きなボタンが設置されていた。
そのボタンを何気なく見つけ 助産師さんに聞いてみる。
「このボタンは?」
「このボタンを押すと全館、全医師、スタッフに緊急連絡が入ります。」
「対応可能な職員全員で総力をあげて対応するんです。」
「凄いですねぇ 前の時はありました?」
「いいえ、無かったです。分娩もそうですが 色々な不測の事態にも備え 過去の事を生かして設置されました。」
「昔も緊急連絡をする方法はありましたけどボタンはありませんでした。」
「もうあのような事を二度と起こさないようにです。」
「そうなんですね!心強いです!」
その会話を 何度も頷きながら 女医先生も聞いていた。
ママちゃんは それどころじゃなかったかな?(笑)
ゆっくり少しずつ進んでいく。
ママちゃんは ふー君を産んだ時の記憶がない。
どんな形であれ最後まで 経験して覚えていたいと願って望んだお産だった。
女医先生も そうしてあげたいと思ってくれていたみたい。
みんなの気持ちが嬉しかった。
大変な想いをしたけど、あの事があったから このボタンができた。
無駄じゃなかった。
このボタンは使わない事が1番だけど きっと誰かの事を助ける事に繋がるかもしれない。
こうやって ひとつひとつ道ができていくのかな。
その道を開いてくれた先輩がいるから 次の後輩はその道を歩く事ができる。
その後輩はまたその道を進みやすくして新しい道を・・・
すこしずつみんなが過ごしやすい世界になっていくといいな。
あの経験は なにひとつ無駄じゃなかった。
なにかあっても ひとつひとつ 拾って行こうと思った。
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午前4時36分 無事に男の子 誕生。
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命名 すけまる
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やっぱりビデオなんて撮影する暇もなかったけど元気に生まれてきてくれた。
ママちゃんも無事だ。
女医先生もすごくホッとした表情をしてた。
長かった6年間。
ずっと心の中にあったモヤモヤが晴れた気がした。
Daddyが呼ばれて赤ちゃんの身長や体重を測る。
身体の色々な所を看護士さんと一緒に確認していく。
へぇ…生まれた後はこうして確認するんだなぁ
なんてしみじみ思う。
それからママちゃんに抱かれ スヤスヤと眠る すけまるだった。
朝方まで2人に付き合って家に戻った。
おばあちゃんとふー君は 朝ごはんを食べてた。
「生まれたよー」
って報告をすると
「やったー!」
と喜ぶふー君だった。
ママちゃんが 入院してる間に 生活発表会があった。
物語「龍の子太郎」の馬役だった。
内容を全部聞いてしまったDaddyは ふー君にひとつお願いをした。
馬が登場するとき セリフにない
「ヒーーン!」
って言ったら目立つんじゃない?だから勝手に増やしちゃお(笑)
「わかった!」
と言って何回も練習してた ふー君
本番で突然 変な鳴き声を出して みんなをドン引きさせたのは Daddyのせいではない(笑)
やっぱり 馬は ヒヒーンだよね?(笑)
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