筋ジストロフィーの息子と共に生きる父のブログ 第35回
運動会
小学校最後の運動会がやってきた。
種目は徒競走とタイヤ引き、
そして組み立て体操
徒競走は例年通り、距離を調節して参加させてもらう。
1年生の時から思えば見守る僕達も慣れたもの。
距離を調節しても最下位なのは変わらなくて、最後までゴールに向かう息子に皆さんが拍手を贈ってくれる。
むしろ ふー君はそれを楽しんでいる。
相変わらず僕達は複雑な気持ちで見ているけど、昔ほどではない。
強くなったのか、ただ慣れただけなのか。笑
タイヤ引きは タイヤに乗せてもらうのも検討してくれたみたいだけど、引っ張る方になった。
車椅子に紐をかけて引っ張る。
電動車椅子だから、大丈夫。
これも参加できた。
本当にこの6年どんな形であれ参加できるように考えて頂いた。
僕達家族にとってどれだけ勇気をもらったのか計り知れない。
小学校最後の運動会、大トリに組み立て体操がある。
毎年、組み立て体操は、静まりかえり保護者達も真剣に見ている。
組み立て体操が始まると 何故かそういう雰囲気になる。
思えば、低学年の頃。
組み立て体操を見ていたふー君が
「かっこいいなぁ、6年生なったら頑張ろう」
「ふーは、車椅子やから無理やん」
「それまでに治るし!絶対できるわ!」
「やれるもんなら、やってみろよ」
と友達数人と口論になり家で泣いていた事がある。
近くにいた先生が、聞いていてすぐ注意してくれたそうだけど。
その話を聞いて、
「大丈夫や、絶対できるよ」
と声をかけ
「そうやんな、絶対できるよな」
と ふー君とした会話を思い出す。
ふー君についた初めての嘘。
まぁ治ると信じてるから、全部嘘って訳でもないんだけど。
あれから数年経ったけど、治療と言う治療はまだ無い。
これから先の中学のこと、高校、成人した先の事をぼんやり考えてた。
少し油断すると不安になってしまう自分がいた。
先生の笛の合図で組み立て体操が始まる。
ピリっとした空気の中で持ち場に着く息子。
すげぇなぁ…めちゃくちゃいい顔してる
車椅子でも できる事を真剣に一生懸命にやってた。
ピッ!…ピッ!…
笛の合図で練習してきた技を1人披露する。
その度に保護者からは大きな拍手が贈られる。
ピッーーッ!…
1人技のパートが終わり2人技に入る。
車椅子を利用して友達が技を決める。
他の子達もとても綺麗に決まっている。
ふー君も車椅子を上手に使い、なんとか参加。
ピッ!…ピッ!
笛の音だけが聞こえ、2人技が披露されていく。
そして、3人技…
4人技…
5人技と
難易度の高い技が出始める。
ピッ!!!!
一生懸命 練習してきた技を見せる。
パチパチパチパチパチパチ…
拍手が巻き起こる。
みんな大きくなった自分の子供を見ながら涙ぐんでいる。
ピッーーーーッ!
長い笛が鳴り全員が綺麗に整列、緊張感のある空気に。
6年生全員がビシッと気をつけの姿勢。
車椅子のふー君が6年生 全員の前に移動する。
電動車椅子の音が聞こえそうなぐらいの静けさ。
インターネットで探しまくった大きな音が鳴る笛。
隣にいた先生がふー君に その笛を渡す。
がんばれ!!…頼むぞ、デカい音鳴れ!!
心の中で叫んだ。
ピッーーーーーッ!
また陣形が一斉に変わる。
最後の大技。
ピラミッドと、タワーだ。
ピッ!…
ふー君の笛の音で1段…
ピッ!…
2段目…
ピッ!
3段…4段…と高くなっていく。
笛の音が たまに小さく鳴る時があって ハラハラドキドキしながら見ていた。
タイミングをしっかり見ながら
ピッ!…
見上げる高さのピラミッドとタワー。
最後は頂上で立ち上がれば終わり。
状態が整うまで、みんなが見守る。
そして、ふー君の笛。
ピッ…ピッ…ピッーーーっ!!
頂上の子が立ち上がりポーズを決めた。
おおおおおおおおおっ!!
割れんばかりの拍手が響いて、組み立て体操は大成功だった。
列になり保護者の前を行進していく6年生。
笑顔ではなく、引き締まった表情のふー君もいた。
この6年、色んな事を感じ経験した。
ふー君に教えられた事は数え切れない。
後悔した事もいっぱいあるけど、自分の中では まずまずかなと思う。
こんな自分が親になり、訳もわからず過ごしてきた息子の6年間。
少しだけ親として、自信がついた気がした。
小学校の間にどうしても、達成しておきたい目標がある。
親が付き添う事のない登下校だ。
校長先生に何度もお願いに行き、中々 許可が出ない登下校。
何かあった時に対応できない。ってのが理由。
まぁ責任問題になるからかもしれない。
でも それを踏まえても この問題は達成したかった。
1人で家から出かけて、1人で帰ってくる。
当たり前と思っていた事は当たり前じゃなかった。
でも 今だからこそ できる事。
治療法ができて、いつか大人になった時の為。
逆に病気がこのまま進行すれば、手伝いが必要になるだろう。
1人で出かける事なんて 出来なくなるかも知れない。
だからこそ、今にこだわった。
商店街まで…
次は信号まで…
と だんだん距離は伸びてきた。
最後はやはり家から登校させたい。
それがきっと自信に繋がると想う。
僕達は小学校だけを見ているのでなく、これから先の息子の事を考えている事。
何度も何度もお願いをした。
どうせバレないんだから、家から無断で登校させる事も考えた。
でも、嘘はつきたくない。
正々堂々とやりたい。
運動会や参観、懇談など 学校に親が行く時は校長先生に挨拶をする。
忘れてもらっては困るからだ。
ちゃんとしてる親をアピールする狙いもあった。
あそこの子なら…と思ってもらえれば 認めてもらえるかも知れない。
行事の度に校長先生の近くに行き、挨拶を繰り返した。
担任の先生と支援学級の先生に 自宅から登校させたいと言う事で また話し合いをしたい。
と伝えてもらった。すると
今までのふー君の行動も見てくれていたんだろう。校長先生が
「もう卒業まで残り少ないですが、家から登校していいですよ。」
と、言って下さりやっと認めて貰える事になった。
もしかすると面倒くさかったのかも知れない。笑
ふー君は しっかり安全に注意する事を再度 釘を刺されてた。笑
帰ってからは1人で色々出かけてるんだけど。
たかが登下校の話かも知れないけど、いつか必ず役に立つと思うし、自信に繋がると思う。
粘りに粘って、正々堂々とできるようになった。
Daddy家がこだわった 1人登校がやっと始まった。
続く…