第5話 CPKの数値 筋ジストロフィーの息子と共に生きる父のブログ

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筋ジストロフィーの息子と共に生きる父のブログ 第5話

クレアチンキナーゼ(CK・CPK)

CPKってなんやねん!  

(ウィキペディアより)

波乱の1日から 1晩開けた。

観察室のベンチベッドは硬くて 中々眠れなかったけど少しスッキリした。

ママちゃんは安定しててぐっすり寝てる。

寝顔を見てるとまた不安になるけど もう変な事考えるのは やめよう。

ママちゃんも無事だし、赤ちゃんはNICUだけど 看護師さんの口ぶりでは 落ち着くまでっぽいから 良かった。

しばらくしてママちゃんが起きて頭が痛いって言ってるけど 運ばれてきた朝食を摂る。

それをぼんやり眺めてると NICUの看護師さんがやってきた。

「あ、お母さん大丈夫そうで良かったですね。赤ちゃん頑張ってますよ。」

少し安心したような少し複雑そうなママちゃんだった。

「お母さんはまだもう少し休んでてくださいね。」

「お父さん 赤ちゃんミルク飲みますけど 見に来ますか?」

と言われ、複雑そうなママちゃんが気になったけど、うなづいた。

「ちょっと見てくるわ」

そう言ってNICUへ

ひとつの数値

習った通りに消毒をしてガウンとキャップを装着。

たくさんの計器の音が暖かく聞こえた。

昨日ぶりに赤ちゃんの元へ 昨日よりはチューブが減ってて 安心した。

慎重に看護師さんが保育器から出してくれて 哺乳瓶を口に運んだ。

なんかドキドキ(笑)

「ちゅ…ちゅ」

おおおおおおお! 飲んでる!すげー!!

ママちゃんも見たいだろうなーと思った。

抱っこします?とか 言われないだろうなと内心ビビってたけど、その言葉はなかった。

でも 小さな小さな手に人差し指を当てると 暖かかった。

触っちゃったぁ!ちっこぃいい!

すげぇな! 爪とかちゃんとある!

無駄に感動してた。

ママちゃんに報告しないといけないので ちゃんと色々聞かないと…

「色々検査しましたが 、1つ数値が高くて心配したんですけど、下がって来てますし、心配なさそうです。」

「出産のときに辛かったんでしょうね」

そばにいたNICUの先生も参加してきて紙を見せてくれながら

「このCPK数値が高いと 筋疾患の疑いがあったんです。」

「筋ジストロフィーとかね。でもこうして下がってきてますし、おそらくこのまま下がってくるかと思います。」

あぁ…そうなんですね。

なんの数値か わかんないまま 赤ちゃんの事をお願いして観察室に戻った。

ママちゃんはぼんやりしてたけど

「どうだった?」

と聞くので大丈夫そうだったよって答えた。

哺乳瓶でミルクを飲んでた事、NICUの様子等を話した。

数値の事は言う事でもないなと 話さなかった。

会社に経過を報告して 観察室に戻ると 看護師さんが

「もう落ち着いてきましたし、病室行きましょうか。」

「ちょうど個室開きましたから」

安心できるまでは泊まるつもりだったので個室で良かった。

色々話して 夕飯を2人で食べた。

当たり前にできる会話が嬉しかった。

ママちゃんご対面

少し落ち着いた頃に看護師さんがやってきた。

「お母さん そろそろNICU行ってみよう」

複雑そうなママちゃんだった。

でも見せてあげたくて 行こうって 声を掛けた。

ママちゃんは黙ってたけど、看護師さんが車椅子を持ってきてくれて 少し強引に車椅子に座らせてくれた。

今思えば わざとだったのかも(笑)

NICUに行くまで ママちゃんは何も話さなかった。

不安だったんだろう。

どんな形であれ ママちゃんは頑張った。

胸を張って欲しかったし、赤ちゃんに会って欲しいと思った。

少し先輩風を吹かせて 消毒の手順を説明した。

いつものママちゃんなら笑うんだけどな〜

車椅子を押すDaddyの手をママちゃんが握ってきた。

大丈夫!そう手で伝えるように 握り返してやった。

かっこいいねDaddy(笑)

ゆっくりと車椅子を進めて、保育器の前へ・・・

じーーーっと 保育器を見つめている。

それを横で眺めていた。

良かった…そう心から思ってた。

「…」

「……」

「…」

「可愛い……」

素直なママちゃんの赤ちゃんにかけた初めての言葉 。

それから ずーっと黙って2人で赤ちゃんを眺めてた。

小さな胸が大きく膨らんだりしぼんだり 初めて3人で過ごす幸せな時間だった。

病室に戻って ママちゃんと少し話しをしてベンチベッドで寝た。

もう1日休みをもらった。

次の日、心配してくれたママちゃんの友達達が面会に来てくれた。

くだらない話でママちゃんも笑ってる。

部屋にいない赤ちゃんの事は誰も聞かなかった。

病室に来るまでにDaddyが簡単に説明をしておいたからかな。

友達に会えてリラックスできた。

ママちゃん退院

次の日から仕事に戻り、終わってから病院に行く。

ママちゃんが退院する日まで続いた。

赤ちゃんは数値が思ったより下がらず入院継続となった。

ママちゃんが先に退院。

筋疾患の話をしてくれた先生が改めて ママちゃんに数値の説明をする。

分娩時のトラブルで赤ちゃんも辛かったのだろう。

それしか思ってなかった。

ママちゃんもピンきてないのか 触れたくなかったのか 2人でその話はしなかった。

筋ジストロフィーと言う病気の事は テレビで見た事ある程度の知識しかなかった。

仕事に向かう車の中で 病気の事をぼんやり考えたりし、もしそうだったら…とか 1人になる度に考えたりもした。

大変な病気である事は 何となく程度だけど わかってたつもりでいた。

でも、そんな筈はないし退院するころには数値も下がってるはずだ。

自分に言い聞かせていた部分もあった。

朝 仕事に出て終わってから ママちゃんを拾って 赤ちゃんに会いに病院へ行く。

しばらくその生活が続いた。

20日間ぐらいの入院で 理想の数値ではなかったけど、徐々に下がってきていたので退院することになった。

よかった…ママちゃんには 言えなかったけど実は心配で仕方がなかった。

たぶんママちゃんも同じ気持ちだったと思う。

でも口に出してはいけないような 黙って願うことが 1番いいことなんだと思ってた。

言葉にすれば現実になるような気がして怖かった。

それからは しばらくママちゃんの実家生活だ。

あっという間に時間が過ぎ 1ヶ月検診。

色々あったけど 赤ちゃんも無事に退院してるし 心配もしてなかった。

そろそろ終わったかなぁ…

なんて思いながら仕事をしてたけど いつまで経っても 連絡はない。

色々な不安が頭をグルグルしてた。

大丈夫大丈夫。

そう思いながら 仕事で馬鹿な話をして誤魔化してた。

それからしばらくして ママちゃんから電話。

「検診行ってきたよ…入院のときから言ってた数値10000もあるって…」

「確定じゃないけど ほぼ間違いないって…」

「……」

「おそらく筋ジストロフィーだって」

言葉にするのは嫌だったはず。

つらかっただろうな。ママちゃん。

そういう冗談いらんよ〜って思ったけど ママちゃんはそういう冗談は言えないタイプ。

「わかった…帰ってからゆっくり聞くわ」

そう言って電話を切ったけど もう仕事は手につかないよね(笑)

仕事が終わって ママちゃんの実家に向かうまで 運転しながらずっと信じられなかった。

父親としてどうすればいいか 旦那として どうするべきか 考えてた。

でも俺がしっかりしないとって無理やり自分を押さえ込んでた。

ママちゃん実家に車を停めた。

よしっ!

気合いじゃぁあ!

「ただいま〜!」

玄関を開けるとママちゃんが 腫れた目で迎えてくれた。

任せとけ!

なんて思いながら満面の笑顔をしたつもりだったけど できてたかな?

赤ちゃんはおばぁちゃんに抱っこされていた。

抱っこされた赤ちゃんの腕には 採血がうまくいかなかったのか

何ヶ所か ガーゼがついたまんまで めちゃくちゃ綺麗な目で

嬉しそうに僕を見つめてた。

その目を見た時に涙が出た。

泣いてしまった

せっかく色々考えて帰ってきたのに 赤ちゃんを見た途端 涙が溢れた。

泣いてしまった。

生まれた時に心配してやれなかったこと

小さい身体で 必死に頑張ったこと

これから この子が進む人生のこと

自分がこれから背負う先の事を考えてしまった。

まさか自分が障害を持つ子の親になるなんて…

泣いてるのに どこか冷静に自分の事を考えた自分が心底 嫌いだった。

こんな自分を見てキラキラした目で笑ってくれている息子。

凄く嬉しそうに笑う。

お父さんだ!って思ってるのかな…

涙が止まらなかった。

その姿をみて ママちゃんも また泣いてるし、

抱っこしてるお義母さんも、もらい泣きしながら

「泣いたらあかん…」

って言われたけど こんな時ぐらい泣かせてくれ〜って思ったな(笑)

大人3人が 泣いてるけど赤ちゃんは キョトンとしてて 赤ちゃんに負けてる…って思った。

その時に自分で決めた自分への約束。

もう泣かない

旦那として父親として強く明るく世界一楽しい家庭にしよう。

そういう家庭を作ろうと思った1ヶ月検診の夜でした。

どんなことがあっても笑っててやる。

不安がいっぱいだけど、踏み出せる気がした。

補足

クレアチンキナーゼ

男子の標準は230ぐらいだそうです。

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